愛工技センターニュース 平成11年3月1日発行 第477号


精密部品、電子部品の防錆包装の新しい動向


 防錆剤を用いた従来の防錆包装は、自動車部品を中心とした中型や大型の金属製部品の包装に広く使用されており、防錆包装の多くの部分を占めている。しかしながら、工業製品の小型化や電子化につれて、使用される部品の購入・加工・保存・輸送段階での防錆のために、従来の防錆方法に代わって、乾燥剤や酸素吸収剤を組合せた防錆方法を用いる場合が出てきている。
 その理由として次のような点があげられる。
@防錆油や防錆剤を用いると、部品の金属表面に付着・吸着した有機成分が、後工程での加工や部品性能の妨げとなる場合がある。
Aハンダ等の金属表面の「酸化防止」が必要とされる場合があり、防錆剤では防止が難しい。
 ここでは、精密部品や電子部品にみられる最近の新しい傾向について紹介します。

   1.原 理   金属部品の腐食には、水分と酸素の存在が必須条件となる。このため、従来の防錆包装では、防錆剤を金属表面に付着・吸着させて、金属と水分の接触を遮断する方法が採用されてきた。
 これに対して、新しい方法では乾燥剤による「水分の除去」と、酸素吸収剤による「酸素の除去」を行い、必須条件の一部を欠足させることによって腐食・酸化を防止する方法が採られている。
   2.必要資材   このような新しい方法は、種々の資材の開発によって可能となってきた。それら資材の一覧をに示す。
(1)遮断用フィルム  部品を「酸素」「水」「腐食性ガス」等から長期に亘って遮断するために、大要3層構造から成る積層フィルムが用いられている。
 外層にはポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン等の機械的強度に優れたフィルムが使用されている。
 中層には、酸素、水分の遮断性が高い「アルミニウム箔」、「アルミニウムを蒸着させた膜」、「シリカやアルミナを蒸着させたセラミック蒸着膜」等が使用される。蒸着には、外層フィルムを支持層とする場合が多く、蒸着層への亀裂侵入防止のために、外装フィルムには伸縮の少ないPETフィルム等が好ましい。アルミニウム箔は、最も遮断性が高いとみられている。
 内層には、熱シールが容易なポリエチレンフィルムや、より高温でシールのできるポリプロピレンが用いられる。高温でのシールは、包装状態で加熱処理等を施す場合のシール性を維持するために必要となる。
(2)乾燥剤  従来からある無機系の乾燥剤が使用されているが、塩化カルシウムやシリカゲルは腐食性があるために不適当とされる。
(3)酸素吸収剤  無機系では、@成分構成が携帯カイロと類似した「鉄粉と反応促進剤等」を含むタイプ、有機系では、A酸素吸収反応に水分を必要とするタイプ、B水分を必要としないタイプ等がある。腐食・酸化防止用としては、乾燥剤と併用するので低水分雰囲気でも反応の進行するBのタイプが使用される。
(4)腐食性ガス吸収剤  腐食反応を促進する亜硫酸ガス等を吸収する薬剤を使用する。 表.遮断用フィルム、乾燥剤、酸素吸収剤の種類

遮断用フィルム 外層 PET*1、ナイロン
中層 Al箔、Al蒸着、シリカ蒸着*2、アルミナ蒸着*3
内装 ポリエチレン*3、ポリプロピレン*3
乾燥剤 シリカゲル、クレイ系、酸化カルシウム
酸素吸収剤 無機系、有機系(水必要)、有機系(水不要)

*1:Polyethylene Terephthalate   *2:セラミック蒸着とも呼称
*3:通常無延伸フィルムが多い
   3.実用例 
 上記資材に、組合わせた市販防錆剤を用いた防錆包装例の一部に次のようなものがある。
T.金属粉末(亜鉛、銅等)の酸化・腐食を防止して保管・輸出するための包装
U.IC用の基盤を輸出して海外でボンディング等の加工を行う場合に、金属表面の酸化に伴う接着性の低下を防ぐための包装
V.MO用カセットケースの製造で、Mg成形ケースに表面処理を施すまでの保管のための包装
W.カメラシャッター部品への防錆油塗油工程を省略した包装 X.通信機器用の保全部品を長期に亘って保管する場合の包装(20年程度)
参考文献  電子材料 Vol35,No.9,p77〜84

(応用技術部 小谷 勇)